分子細胞生物学

PubMedID 30833752
Title Combination of ERK and autophagy inhibition as a treatment approach for pancreatic cancer.
Journal Nature medicine 2019 04;25(4):628-640.
Author Bryant KL,Stalnecker CA,Zeitouni D,Klomp JE,Peng S,Tikunov AP,Gunda V,Pierobon M,Waters AM,George SD,Tomar G,Papke B,Hobbs GA,Yan L,Hayes TK,Diehl JN,Goode GD,Chaika NV,Wang Y,Zhang GF,Witkiewicz AK,Knudsen ES,Petricoin EF,Singh PK,Macdonald JM,Tran NL,Lyssiotis CA,Ying H,Kimmelman AC,Cox AD,Der CJ
  • 膵癌の新しい治療戦略:ERK阻害+オートファジー阻害
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 齊藤 まりこ
  • 投稿日 2020/01/30

【概要】

 膵管腺癌(PDAC)には、KRAS変異や、細胞内での活発なオートファジー等の特徴がある。著者らは今回、KRASがオートファジーに影響を与えるメカニズムの解明に挑んだ。
 実験結果より、多くのPDAC細胞株において、KRAS抑制時に抑制前よりもオートファジーが更に活発になることを認めた。また、ERK抑制時にも同様に、細胞内オートファジーの活発化が見られた。
 著者らは更に、KRASやERKを抑制したPDAC癌細胞の細胞状態に注目し、糖代謝状態やミトコンドリア機能を確かめた。これらの実験結果を以って著者らは、KRAS或いはERKが抑制された際、癌細胞がオートファジー機構を代償的に高めて積極的に利用することで、細胞増殖・成長を続け得ると予想した。
 そこで著者らは次に、ERK阻害剤・オートファジー阻害剤の併用投与実験をin vitro 及びin vivoで行った。実験結果からは、各単剤投与時に比べ、併用時の方が大幅に優れた抗悪性腫瘍効果が期待できる。著者らは本論文の結びに、今後のPDACの有効な治療戦略として、「ERKとオートファジー両方の持続的な阻害」を提案している。

【補足】

 PDAC細胞では、正常細胞よりもオートファジーが亢進していることは既に知られていた。本現象に着目し、オートファジー阻害剤:ヒドロキシクロロキンによる治験(米国)も進行中である。しかし、その治験成績は現時点で芳しくない。
 この現状を踏まえた上で、著者らは、PDAC細胞におけるKRAS変異とオートファジー活性に何らかの関連性があるのではないかと考えたが、そのメカニズムを具体的に示す報告はこれまでに無かった。

【コメント】

 著者らはERK阻害剤として、主にERK1/2阻害剤であるSCH772984を、(間接的)オートファジー阻害剤として、クロロキン及びヒドロキシクロロキンを用いている。両者の併用による癌抑制効果は、in vitro, in vivo 両方の結果から期待できるものである。また、ERK上流のRas (KRAS) 抑制時のオートファジー阻害によっても、同様の結果を得ている。
 但し、Extended Figure 7bには、MEK阻害剤(ビニメチニブ)とオートファジー阻害剤(クロロキン)を併用しても、併用はさほぼ効果的でないことを示唆するin vitroデータがある。Ras→Raf→MEK→ERKというERK経路シグナルカスケードを考えれば、RasやERKの抑制とオートファジー阻害の場合に、抗悪性腫瘍の向上効果が期待できるのに、MEK阻害とオートファジー抑制ではその通りにならないことは疑問である。

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