分子細胞生物学

PubMedID 30661929
Title Autoregulation of Osteocyte Sema3A Orchestrates Estrogen Action and Counteracts Bone Aging.
Journal Cell metabolism 2019 03;29(3):627-637.e5.
Author Hayashi M,Nakashima T,Yoshimura N,Okamoto K,Tanaka S,Takayanagi H
  • Autoregulation of Osteocyte Sema3A Orchestrates Estrogen Action and Counteracts Bone Aging.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 坂東 沙弥
  • 投稿日 2020/02/15

 骨組織は、古くなった骨を破骨細胞が吸収し、そののちに骨芽細胞が骨吸収部位を新しい骨で完全に埋めることによる骨リモデリングを行うことで骨恒常性が維持される。骨リモデリングのバランスか崩れ、骨吸収が骨形成より上回ると骨密度が低下し、骨粗鬆症を引き起こすと考えられる。骨粗鬆症は特に女性に多い病気であり、女性ホルモンのエストロゲンが骨吸収を抑制することが知られている。エストロゲンは骨芽細胞や骨細胞の生存を促進することで骨量を維持する働きがある。閉経によりエストロゲン分泌が低下すると骨密度が減少するため、閉経は骨粗鬆症も要因と考えられる。これまでの研究では、エストロゲンが骨細胞を介してどのように骨代謝を制御するのかは不明であった。また筆者らは以前、セマフォリン3A (Sema3A)と呼ばれる可溶性タンパク質が骨吸収を減少させると同時に骨形成を促進することで骨保護因子として働くことを報告したが、その作用機序は不明であった。
 本論文で筆者らはまず、骨細胞を細胞外因子で刺激し、Sema3Aの発現を上昇させる因子を調べたところ、エストロゲンが濃度依存的に発現を増強させた。また、エストロゲンによるSema3Aの発現増強はSema3Aを標的とするマイクロRNAの発現抑制によるものであった。実際に閉経後女性におけるSema3Aの血中量は閉経前女性よりも顕著に減少した。さらに、骨芽細胞系列細胞特異的にSema3Aを欠損させたマウスを作製し、卵巣摘出やエストロゲン投与を行っても、骨量に有意な変化が見られなかった。これらの結果から、Sema3Aがエストロゲンによって発現制御され、そのSema3Aが骨量維持で中心的な役割を担っていることが示唆された。
 また、生後の骨芽細胞系列特異的Sema3A欠損マウスや間葉系前駆細胞特異的Sema3A欠損マウス、骨芽細胞特異的Nrp1欠損マウス (Nrp1; Sema3Aの受容体)での骨量減少が観察され、 成体において、骨芽細胞系列細胞特異的なSema3Aが骨量制御のために作用していることが明らかになった。
 次に筆者らは、加齢におけるSema3A発現量の変化をしらべたところ、ヒトでもマウスでも加齢に伴ってSema3Aの血中量の低下が観察された。高齢マウスにおいて骨芽細胞特異的、もしくは骨細胞特異的Sema3A欠損マウスを作製し、骨を解析したところ、骨芽細胞特異的Sema3A欠損マウスでは骨量が正常であったが、骨細胞特異的Sema3A欠損マウスでは加齢に伴う極めて重篤な骨減少症を観察した。加えて、骨細胞特異的Nrp1欠損マウスでも同様な結果がみられたことから、高齢マウスでは主に骨細胞がSema3Aを産生し、骨量維持効果を発揮することが示唆された。
 高齢の骨細胞特異的Sema3A欠損マウスが、骨量減少に至った原因を解析したところ、これらのマウスの骨では骨細胞数が顕著に減少していた。実際に、IDG-SW3細胞(骨細胞)にSema3Aを刺激すると、可溶型グアニル酸シクラーゼ (sGC) が活性化され、環状グアニル酸一リン酸 (cGMP) 産生を介した生存シグナルが活性化した。さらに卵巣摘出した骨細胞特異的Sema3A欠損マウスにsGC活性化剤を投与すると、骨細胞が増加し、骨量減少が抑制された。
 以上の結果より、筆者らは、骨細胞が産生するSema3Aは特に高齢において重要であり、骨細胞自身に発現するNrp1を介して細胞生存を維持し、自己制御ループを形成することで骨保護作用を示すと結論づけた。Sema3A及びSema3Aの下流で働くsGCを標的とした治療法は、骨関連疾患の治療につながることが期待される。

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