分子細胞生物学

PubMedID 31511697
Title DDX3X acts as a live-or-die checkpoint in stressed cells by regulating NLRP3 inflammasome.
Journal Nature 2019 09;573(7775):590-594.
Author Samir P,Kesavardhana S,Patmore DM,Gingras S,Malireddi RKS,Karki R,Guy CS,Briard B,Place DE,Bhattacharya A,Sharma BR,Nourse A,King SV,Pitre A,Burton AR,Pelletier S,Gilbertson RJ,Kanneganti TD
  • DDX3X acts as a live-or-die checkpoint in stressed cells by regulating NLRP3 inflammasome.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 吉岡 大介
  • 投稿日 2020/08/17

 NLRP3 inflammasomeは炎症性サイトカインであるIL-1bの産生を担うタンパク質複合体である。細胞がNigericin、細胞外ATP、細胞外結晶などに晒されると、NLRP3、ASC、Pro-Caspase-1が複合体を形成し、その結果Caspase-1が自己切断によって活性化される。活性化したCaspase-1はIL-1bの成熟を誘導し、さらにGasdermin Dを切断する。切断されたGasdermin DのN末端側の切断体が細胞膜にPoreを形成し、炎症誘導性の細胞死であるPyroptosisを誘導する。
 細胞内でストレスに応じて形成する他の構造体としてストレス顆粒が知られている。細胞がヒ素刺激、ERストレス、ウイルス感染などのストレス刺激に晒されると、細胞質においてmRNA、40Sリボソームサブユニット、RNA結合タンパク質、シグナル伝達分子などが液液相分離によって集まることでストレス顆粒を形成する。ストレス顆粒はストレス環境下における翻訳の停止、mRNAの保護、アポトーシスの抑制を担っており、ストレス応答において重要な役割を担っている。

 これまでにNLRP3 inflammasome、ストレス顆粒の両者は様々な刺激によって形成することが知られていたが、この両者の関係については報告されていなかった。筆者らはNigericinによって誘導されるNLRP3 inflammasomeがストレス顆粒形成刺激であるヒ素によって影響を受けるか検証を行った。その結果、ヒ素とNigericinの複合刺激ではNLRP3 inflammasomeの活性化の指標であるCaspase-1の切断体の産生が抑制されることを見出した。さらにストレス顆粒形成を阻害することが知られているAnisomycinを添加すると、ヒ素によるNLRP3 inflammasomeの活性阻害がキャンセルされた。このことから筆者らはストレス顆粒形成がNLRP3 inflammasomeの形成を阻害すると考えた。
 ストレス顆粒によるNLRP3 inflammasome阻害の詳細な機構を解明するため、NLRP3 inflammasomeの結合因子を探索した。その結果、NLRP3がストレス顆粒構成因子として報告されているDDX3Xと結合することを見出した。DDX3XをノックアウトによってNigericinによって誘導されるCaspase-1の切断体が減少し、さらにNLRP3 inflammasomeの構成因子であるASCの顆粒状の構造体の形成が阻害された。このことからDDX3XがNLRP3 inflammasomeの形成に重要であることを明らかにした。
 次にDDX3Xがヒ素とNigericinの複合刺激時に、どのような局在を取るか免疫染色によって検証した。DDX3XはNigericin刺激時にはNLRP3 inflammasomeの構成因子であるASCと共局在していたが、ヒ素とNigericinの複合刺激時にはストレス顆粒に局在していた。このことから筆者らはストレス顆粒がDDX3Xを隔離することによって、NLRP3 inflammasomeの活性を阻害するモデルを提唱している。

 本論文ではこれまで報告されていなかったNLRP3 inflammasomeとストレス顆粒の両者の関係に着目した点で、非常に興味深い内容となっている。しかしヒ素、Nigericin、さらにAnisomycinの複合刺激は生理的な環境とはかけ離れた条件であり、生体内でこのような阻害機構が観察されるかは不明である。さらにヒ素はストレス顆粒形成以外にも様々なストレス応答経路を活性化することが知られている。本論文ではヒ素によって誘導されるストレス顆粒形成、またはストレス顆粒形成以外のストレス応答経路のどちらがNLRP3 inflammasomeを抑制するか区別がついていない。このため、より生理的な条件におけるストレス顆粒とNLRP3 inflammasomeの関連についてはさらなる検証が必要である。

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