分子細胞生物学

PubMedID 28436956
Title Identification of subepithelial mesenchymal cells that induce IgA and diversify gut microbiota.
Journal Nature immunology 2017 Jun;18(6):675-682.
Author Nagashima K,Sawa S,Nitta T,Tsutsumi M,Okamura T,Penninger JM,Nakashima T,Takayanagi H
  • Identification of subepithelial mesenchymal cells that induce IgA and diversify gut microbiota.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 中野 裕希
  • 投稿日 2017/08/24

哺乳類の消化管は数兆もの腸内細菌を宿しているのと同時に、多数の免疫細胞が配備されている。哺乳類が繁殖の場と栄養素を提供する一方で、腸内細菌は病原菌の生着阻害・消化の補助・有害代謝物の解毒を行うという共生関係にある。腸内細菌と免疫細胞の継続的な対話は、腸内のホメオスタシスを保つのに非常に重要であると考えられている。
腸管上皮は単層の細胞シートから成り立っており腸内細菌と腸管免疫系の間を分け隔てている。腸管上皮の正常な分化および維持は、病原体の除去および共生細菌に対する過剰な免疫反応を防ぐのに非常に重要である。
M細胞はパイエル板などのGALT(腸管関連リンパ組織)を覆う上皮であるFAE(Follicle-Associated Epithelium)に特異的に存在し、管腔から細菌を取り込みに特化した上皮細胞で、胚中心の形成の開始によるIgAの産生を誘導すると考えられている。
先行研究から、M細胞の分化、発達には上皮細胞が発現するTNFR superfamilyであるRANK(Receptor Activator of Nuclear Factor - κ B)と、そのリガンドであるRANKLが必須であることが知られている。(Knoop,K.A et al. 2009) しかし、どのような細胞がRANKLを発現し、上皮細胞のRANKに作用してM細胞の分化、IgA産生促進を誘導しているのかということは長い間解明されていなかった。

今回、筆者らは、M細胞の分化を誘導する、M細胞誘導細胞(M cell induser cell)Mci細胞を同定し、この細胞が発現するRANKLと上皮細胞のRANKを介した直接な相互作用が、M細胞の分化、さらにIgA産生を介した腸内細菌叢の制御に関わっているということを突き止めた。

筆者らはIgA産生におけるRANKLの役割を検討するために、FAEの上皮細胞特異的にRANKを欠損したマウスを作製し、遺伝子発現プロファイルを行った。その結果、FAEでは上皮細胞ケモカインであるCCL20の発現低下とM細胞の顕著な減少が認められた。
また、膜結合型RANKLのみを発現するマウスを作製し、mRNA発現とFAE免疫染色をRANKL欠損マウスと比較した結果、RANKL欠損マウスではCCL20の発現とM細胞の減少が観られたのに対し、膜結合型RANKLのみを発現するマウスはWTマウスと同程度のCCL20発現とM細胞が観られた。このことから、遊離型RANKLはFAEの制御に必要がなく、膜結合型RANKLによるdirect cell-cell contactが非常に重要であることが示唆された。
そして筆者らは、免疫染色によりSED(subepithelial dome)でFAEとRANKLを介して直接相互作用している上皮下間葉細胞を発見した。そこで、間葉細胞由来のRANKLの重要性を探るために、筆者らは間葉細胞特異的RANKL欠損マウスを作製した。間葉細胞でのRANKLの消失は、M細胞の分化とCCL20発現の欠損を引き起こしたことから、この上皮下間葉細胞は上皮のCCL20レギュレーターとしてだけではなく、MCi細胞としても振る舞っていることが示唆された。
次に筆者らは、MCi細胞のRANKLが免疫反応に与える影響を検討した。その結果、MCi細胞のRANKL消失によりM細胞の抗原取り込みが顕著に減少すること、CCL20の発現低下により、CCL20依存的なSEDでのB細胞と樹状細胞の相互作用の欠損を引き起すことが確認された。さらには、パイエル板の縮小、IgA産生の場である胚中心とIgAプラズマ細胞の減少、マウスの糞便及び血清中のIgAの減少が観られた。また、マウスにコレラ毒を経口投与し、糞便中のコレラ毒素特異的なIgAをフローサイトメトリーで解析した結果、MCi細胞のRANKL欠損マウスでは、コレラ毒素特異的な免疫応答が損なわれていることが認められた。このことからMCi細胞のRANKLはバクテリアに対する免疫反応によるIgAの産生に必須であることが示唆された。
最後に筆者らは、腸内細菌叢がMCi細胞特異的RANKL欠損によるIgA産生の低下の影響を受けるのかどうかを評価するために、RANKLヘテロマウスとMCi細胞特異的RANKL欠損マウスの糞便を次世代シークエンサー用いて16S rRNA gene sequencingを行い腸内細菌叢の分布を網羅的に解析した。その結果、MCi細胞特異的RANKL欠損により、バクテロイデス属の細菌は減少し、クロストリジウム属の細菌の割合が増加することが分かった。

解析結果の主座標分析とレアファクション解析を行い、
MCi細胞特異的RANKL欠損の影響で、マウスの腸内細菌叢の構成バクテリアの分布が変化し、腸内細菌の多様性がヘテロマウスと比較すると減少するということが認められた
これらのことから、MCi細胞はM細胞分化とIgA産生の誘導を介して、腸内細菌叢の多様化を制御しているということが示唆されました。

このようにして筆者らは、M細胞の分化を誘導する、M細胞誘導細胞(M cell inducer cell)MCi細胞を同定し、この細胞のRANKLと上皮細胞のRANKを介した直接的な相互作用が、M細胞の分化、さらにIgA産生を介した腸内細菌叢の制御を行い、腸内のホメオスタシスを維持するのに関わっているという全く新しい知見を得た。

コメント:今回の研究から、腸内細菌叢の制御に関わる新規のMCi細胞が同定されたが、この細胞が、どのような制御を受けているのか、細胞内の分子メカニズムなどはまだ明らかになっていない。これらの全容が解明されれば、MCi細胞を制御することにより、腸内細菌叢の破綻が引き起こす腸疾患を治療する新たな治療法が開発される可能性がある。

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