分子細胞生物学

PubMedID 29053970
Title mTORC1 Activator SLC38A9 Is Required to Efflux Essential Amino Acids from Lysosomes and Use Protein as a Nutrient.
Journal Cell 2017 Oct;171(3):642-654.e12.
Author Wyant GA,Abu-Remaileh M,Wolfson RL,Chen WW,Freinkman E,Danai LV,Vander Heiden MG,Sabatini DM
  • mTORC1 Activator SLC38A9 Is Required to Efflux Essential Amino Acids from Lysosomes and Use Protein as a Nutrient.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 久保田 裕二
  • 投稿日 2018/02/13

mTORC1はmTORキナーゼ、Raptor、mLST8、及びDeptorから構成されるキナーゼ複合体であり、増殖因子やアミノ酸などの栄養素を感受するシグナル経路を統合し、適切なエネルギー条件下での細胞増殖を促す。mTORC1の活性化制御には多くの分子が関与しており、まずSestrin、CASTOR1/2が各標的アミノ酸(ロイシン、アルギニン)に結合すると、GASTOR1/2に作用してリソソーム膜上のRagulatorのGEF活性を開放する。その後、エフェクター分子であるRagA/CがGTP置換型となり、mTORC1とRhebの結合をリソソーム膜で促進して活性化を導く。最近、これらの制御機構に加え、リソソーム膜タンパク質の一種であるSLC38A9がリソソーム内部よりアルギニンを細胞質側に輸送してmTORC1を活性化する責任因子であることが明らかとなった(Science. 2015 Jan 9;347(6218):188-94)。今回、筆者らはSLC38A9のアミノ酸輸送能の生化学的解析を通じ、その分子機能、制御機構および疾患への寄与について、より詳細な解明を試みた。
 まず、アルギニン結合不能なSLC38A9変異体を作製して、同分子を介したmTORC1の活性化にはアルギニン結合能が必須であることを示した。また、アルギニンと結合したSLC38A9は、Rag-Ragulatorとの結合が亢進することを共沈実験によって示した。同様の結果は、アルギニンのみならずリジンでも観察されたが、前者の方がより強い効果を示すことを確認している。そこで、SLC38A9のアミノ酸運搬能についてさらに探求した結果、同分子のノックアウト細胞から精製したリソソームには、ロイシンを始め特定のアミノ酸(非極性かつ必須アミノ酸:チロシンを含む)が蓄積していることが分かった。また、SLC38A9の過剰発現ではリソソーム内のこれらのアミノ酸量が減少していたことからも、同分子が上記アミノ酸輸送を担うことが示唆された。興味深いことに、proteoliposome再構成系や、細胞由来のリソソームによるin vitroでのアミノ酸輸送アッセイの結果、SLC38A9はアルギニンよりもむしろロイシン輸送を効率よく行うことが判明した。さらに、SLC38A9のアルギニン結合不能変異体を用いた検討から、SLC38A9はアルギニンと結合することでロイシン輸送効率が促進することが分かった。以上の結果から、アルギニンはSLC38A9と結合して(1)Rag-Ragulatorとの相互作用を亢進、(2)ロイシンなど特定アミノ酸輸送を促進し、mTORC1活性化を促すことが示された。しかし、アルギニンによるRag-Ragulator結合亢進の分子的機序は依然として不明である。また、上述のSLC38A9のアルギニン結合不能変異がロイシン輸送(あるいはロイシン結合能)そのものに影響している可能性や、アルギニンがリソソーム膜の外あるいは内側のどちらからSLC38A9に作用するのか、など幾つかの疑問点と今後の課題が見受けられる。
 最後に筆者らは、SLC38A9によるmTORC1活性化が癌の生存・成長を助長しうるか検証した。通常、mTORC1活性は飢餓時において減弱するが、細胞は飢餓ストレスによる死を回避するために栄養源となるタンパク質を細胞外から積極的に取り込み(マクロピノサイトーシス)、リソソームにて分解してmTORC1の再活性化を誘導する。本経路にSLC38A9が関与するか調査するため、特にマクロピノサイトーシスが活発な活性型KRas発現型癌細胞株のSLC38A9遺伝子を欠損させたところ、飢餓ストレス時におけるmTORC1再活性化が阻害されるとともに、細胞増殖も抑制された。さらに、マウスへの移植実験からSLC38A9が癌組織のmTORC1を活性化し、腫瘍増進に寄与していることが確認された。以上の結果から、癌細胞はマクロピノサイトーシス-リソソーム経路においてSLC38A9によりアミノ酸輸送を行い、mTORC1を活性化することでオートファジーを回避し、頑強な生存能を獲得するいう新たなメカニズムが明らかとなった。現在、mTOR経路を標的とした様々な癌治療が注目されているが、mTORが持つ広範な生理機能を考慮すると、阻害剤による副作用を避けることは困難であり、その安全性が強く懸念される。予後の極めて悪い癌の一つである膵臓癌において、その生存にSLC38A9が必須であることから、今後は同分子の抑制制御を目指した新たな癌治療法が提唱されると考えられる。

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