分子細胞生物学

PubMedID 29526694
Title Ubiquitin Modulates Liquid-Liquid Phase Separation of UBQLN2 via Disruption of Multivalent Interactions.
Journal Molecular cell 2018 Mar;69(6):965-978.e6.
Author Dao TP,Kolaitis RM,Kim HJ,O'Donovan K,Martyniak B,Colicino E,Hehnly H,Taylor JP,Castañeda CA
  • Ubiquitin Modulates Liquid-Liquid Phase Separation of UBQLN2 via Disruption of Multivalent Interactions.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野  田口 真梨
  • 投稿日 2018/04/16

ストレス顆粒(Stress granules : SGs)は代表的な膜構造を持たないオルガネラで、細胞の持つストレス応答機構のひとつとして細胞質に形成される。主にmRNAやリボソーム、RNA結合タンパク質により構成され、それらが会合することで、翻訳の停止へと導く。特定のストレスに依存した一過的かつ可逆的な性質を示し、ストレスから解放されると速やかに解消する。SGsをはじめとした膜構造を持たないオルガネラの会合機構として考えられているもののひとつにLiquid-Liquid Phase Separation (LLPS)がある。Prion like domainやLow Complexity Domain(LCD)などのオーダー性の低い領域がLLPSに寄与することが知られており、実際SGsにも局在が見られるFUSやTDP-43、hnRNPA1などRNA結合タンパク質(RBPs)は、LCDを持ち、LLPSを生じる性質を示す。SGsのLLPSの性質に障害が生じると、筋委縮性軸索硬化症(ALS)や前頭側頭性認知症(FTD)などの神経変性疾患の原因とされる封入体の形成と蓄積に寄与すると報告されている。また、HSP70シャペロンタンパク質やバロシン含有タンパク質(細胞内タンパク質分解に関わる神経変性疾患関連因子;VCP)、ユビキチン(Ub)などタンパク質の品質管理(PQC)機構に関わる因子も多く含むことが知られている。VCPやオートファジーなどのPQC機構の不全は、SGsの形成に異常をもたらす。UBQLNsはPQC機構に関連したアダプタータンパク質であり、基質タンパク質を分解機構へ導く作用をする。ALSやアルツハイマー病などの神経変性疾患ではUBQLNsを含んだ封入体が病理学的に同定されており、UBQLN2に関しては、ALS疾患患者でそのProline-richな領域(Pxx)において家族性のミスセンス変異が報告されていることから、疾患との関連が示唆される。
 本論文で筆者らは、UBQRN2がストレス下でSGsに局在し、LLPSを生じる性質を持つことを示した。また、NMR(核磁気共鳴)法を用いた生物物理学的なアプローチで、UBQLN2分子の相互作用や構造変化などによる化学的環境の変化を原子レベルで解析した。これより、UBQLN2の多量体化がLLPSに寄与することを示し、多量体化に関わる複数の領域を同定した。さらに重要なことに、UBQLN2のLLPSはそのUBAドメインとUbあるいはPoly-Ub鎖との相互作用により、総じて解消されることが示された。これはUbの結合がUBQLN2の自己会合に打ち勝ち、LLPSに必要な結合を阻害するためと考えられる。以上のことから、ストレス依存的なSGs形成において、UBQLN2の多量体化により、そのLLPSの傾向が促進する一方、SGs内でのPoly-Ub鎖標識された基質とUBQLN2の相互作用がSGsのLLPSの性質を逆転させ、UBQLN2が随伴して基質をSGsからプロテアソームといったPQC システムへ輸送するという仮説モデルが構築された。
 本論文で同定されたUBQLN2の多量体化に関わる領域は、FUSやTDP-43, hnRNPA1のようなRBPsのLCDに見られるようなアミノ酸(Asn/Gly/Gln/Tyr)を多くは含まない。その代わりに疎水性や極性のアミノ酸を多く含む。筆者らの当初の予想は、UBQLN2についてもLCDに特徴的なアミノ酸の組成の割合がそのLLPSに寄与し、ALS関連変異の報告もあるProlin-rich なPxxドメイン領域が重要であるのではないかというものだった。しかし今回の実験結果より、Pxxドメイン欠損UBQLN2でもLLPSの傾向が示され、Pxxドメインの一領域も含むその他複数の領域が多量体化に関与しLLPSを促進することが明らかになった。このことから、UBQLN2の会合メカニズムはRBPsのLCDを介した様式と異なり、自身の多量体化の性質を利用したLLPSが寄与することが示唆される。そのため、Pxxドメインで報告されるALS関連変異がもたらす影響は、UBQLN2のLLPSの性質以外に関与する可能性が考えられる。これらの変異は、UBQLN2のHSP70 Chaperoneタンパク質や積荷との結合に障害を与え、Ub化された基質をプロテアソームへ輸送するプロセスに影響することが示唆されるが直接的な証拠はまだない。しかし、当初の予想とは裏腹に、一部Pxxドメインも含むが、ほか複数の領域がLLPSに重要であることが示されたことから、UBQLN2のPxxドメインALS関連変異がLLPS以外の機構に関与する可能性があるという示唆は興味深い知見である。

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