分子細胞生物学

PubMedID 29336889
Title KRAS Dimerization Impacts MEK Inhibitor Sensitivity and Oncogenic Activity of Mutant KRAS.
Journal Cell 2018 Feb;172(4):857-868.e15.
Author Ambrogio C,Köhler J,Zhou ZW,Wang H,Paranal R,Li J,Capelletti M,Caffarra C,Li S,Lv Q,Gondi S,Hunter JC,Lu J,Chiarle R,Santamaría D,Westover KD,Jänne PA
  • KRAS Dimerization Impacts MEK Inhibitor Sensitivity and Oncogenic Activity of Mutant KRAS.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 広瀬思帆
  • 投稿日 2018/04/28

KRASの変異はヒトのがんにおいて多く見つかっている。特に肺腺癌では有効な治療法が見つかっておらず、化学療法での治療が行われているのが現状である。KRASの下流として知られるMEKやERKの阻害剤によるコンビネーション療法が有効な場合もあるが、依然として新規治療法の開発が必要である。
Rasは、遺伝子変異によって細胞の悪性形質転換を引き起こす原癌遺伝子として知られており、様々な組織の腫瘍から Ras の活性型変異が見つかっている。また、KRASの野生型は、KRAS変異型を持つがん細胞において腫瘍抑制能を持つことが報告されている(Singh et al., 2005)。肺腺癌において、野生型KRASが欠失すると腫瘍抑制能が失われたり、MEK阻害剤への感受性が増大したことが相次いで報告されたが、野生型のKRASがどのように腫瘍抑制として機能を果たすかは不明のままであった。
またRASは2量体を形成することでその機能を果たすことが報告されている(Lin et al., 2014)。実際に、RASのエフェクタータンパクとして知られるRAFは、RASが2量体を形成することで活性化することが報告されているが、RASの2量体化が生物学的な機能を起こす決定的な証拠は未だ見つかっていない。

筆者らはHRAS-/-;NRAS-/-;KRASlox/loxにKRAS(G12C/G21D/G12V)変異を持つ遺伝子を導入し、4OHT添加依存的にKRAS野生型をノックアウトさせる細胞株を樹立した。これらの細胞株の増殖率を検証したところ、KRASWTがノックアウトされた細胞では顕著な増殖率の増加が確認された。さらに、KRASのGTP活性を確認したところ、KRAS(WT) ノックアウト細胞ではKRASGTPレベルの亢進が見られた。さらに、CRE-LOXPシステムを利用し、アデノウイルス注入時にマウスでKRASWTがノックアウトされた状態での影響を検証した結果、KRAS(WT)がノックアウトされた状態ではそうでない個体に比べ、生存率が低下した。さらに、ウイルス感染させてから6ヶ月後に組織艶色を行なった結果、腫瘍の数が増加・増大が確認された。
次に筆者らはRASの2量体化に必要な領域を予測し、KRAS(D154Q)変異体を樹立した。この細胞株を用いて、FRETによる蛍光退色後の変化を確認したところ、KRASWT と比較して、KRASD154Qでは顕著なCFPシグナルの減弱が見られた。さらに、KRAS(R161E) 変異体でも同様の実験を行なった結果、CFPシグナルの減弱が見られた。筆者らはさらにKRas (G12V;p53-/-)マウス由来の肺がん細胞株を樹立し、ヒト由来のKRAS(WT)及びKRAS(D154Q)を導入させた。この細胞株をnude mouseに静脈注射し、selumetinibを投与した後の肺組織を採取し、ウエスタンブロットを行なった。結果、Parental、KRASD154Qを発現させた肺組織ではERKのリン酸化やCRAFのリン酸化レベルが減少したのに対し、KRASWTではリン酸化レベルは完全に消失していなかった。
また筆者らはKRAS自体の2量体形成の影響を確認すべく、4OHT依存的にKRASの野生型がノックアウトされ、かつ2量体を形成できないD154Qの変異を持つような細胞株を樹立した。これらの増殖率を検証した結果、KRAS(WT)をノックアウトした細胞では増殖率が著しく減少した。さらに、CRAFでIPを行なった結果、KRAS(D154Q)を発現した場合、BRAFとのヘテロダイマーの形成が抑制されただけでなく、CRAFのリン酸化も減少していることが確認された。さらに、マウスのallograftモデルにおいて、発がんを誘導するKRASの2量体化を抑制させた結果、KRAS(G12C)、KRAS(G12D)いずれにおいても顕著な増殖率の低下が見られた。さらに、KRAS(D154Q)はKRAS(G12C)、KRAS(G12D)と比較してERK、MEK、S6のリン酸化レベルが減少していた。また、qRT-PCRを行なった結果、ERKの下流で動く遺伝子の発現も減少していることが確認された。

今回筆者らは、2量体形成不全となったKRAS野生型が、KRAS変異型の腫瘍で増殖抑制効果を持たないこと、MEK阻害剤による治療効果を変化できないことを見出した。さらに、KRAS変異型が2量体化できない場合、がん病態での機能を維持できないことを見出した。今後、これらの現象について詳細な分子メカニズムの解明が課題となる。

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