分子細胞生物学

PubMedID 29615789
Title Metabolic enzyme PFKFB4 activates transcriptional coactivator SRC-3 to drive breast cancer.
Journal Nature 2018 Apr;556(7700):249-254.
Author Dasgupta S,Rajapakshe K,Zhu B,Nikolai BC,Yi P,Putluri N,Choi JM,Jung SY,Coarfa C,Westbrook TF,Zhang XH,Foulds CE,Tsai SY,Tsai MJ,O'Malley BW
  • Metabolic enzyme PFKFB4 activates transcriptional coactivator SRC-3 to drive breast cancer.
  • Posted by 九州大学 生体防御医学研究所 統合オミクス分野 久保田 浩行
  • 投稿日 2018/07/06

結論
代謝酵素であるPFKFB4は転写活性化の補助因子であるSRC3をリン酸化・活性化し、プリン合成を促進することで乳がんの増殖(と転移)を活性化することが明らかになった。これは、細胞の栄養状態を検知し、代謝酵素が代謝を制御するだけでなく細胞増殖を積極的に制御していることを意味している。

背景
SRC3(steroid receptor coactivator-3 )またはNCOA3(nuclear receptor coactivator 3)は転写活性化補助因子であり、ヒストンアセチル活性を持つ。SRC3はoestrogen receptor(ER)の共役因子として発見されていたが、その制御メカニズムは十分に解析されていなかった。

結果
 著者らはSRC3の活性を制御する分子を同定する目的でRNAiをベースとするスクリーニングを用いてPFKFB4を同定した。PFKFB4はフルクトース6リン酸化とフルクトース2,6ビスリン酸の合成と分解の両方の酵素反応を制御する2つの酵素活性を持つ酵素である。フルクトース2,6ビスリン酸は代謝制御に重要であるPFKの活性を亢進するアロステリック分子であり、解糖を促進する。つまり、PFKFB4は解糖系の重要な調節因子として知られていた。
 質量分析器などを用いた解析の結果、PFKFB4はSRC3の857番目のSerをリン酸化し、SRC3の活性を制御していることが明らかになった。また、PFKFB4は培地中のグルコース濃度によって活性が制御されることから、低グルコース濃度(5mM)と高グルコース濃度(25mM)で細胞を刺激したところ、SRC3の857番目のSerのリン酸化が増加していた。次にPFKFB4の活性がSRC3のリン酸化能に必要かどうかを確認するため、PFKFB4のATP-binding活性の変異体を用いて検討したところ、SRC3のリン酸化能が減弱していた。
 SRC3はoestrogen receptor(ER)の共役因子として発見されたことから、次にPFKFB4のER経路に対する影響をレポーターを用いて検討した。その結果、高グルコース濃度においてER活性が増加した。つまり、PFKFB4とそれによるSRC3の活性化がERの活性に重要であることが示された。
 がんにおけるPFKFB4-SRC3の生理的役割を明らかにするために、PFKFB4-SRC3依存的に増殖に関与する代謝物を探索した。その結果、リボース5リン酸やプリンヌクレオチドの前駆体の関与が示唆された。そこで、13Cグルコースによるflux解析によって確認したところ、PFKF4-SRC3の経路はpentose phosphate pathwayからプリン合成を活性化していることが確認された。
 さらに著者らは、乳がん以来の細胞においてSRC3をKDしたgrowth defectはプリンヌクレオチドの添加によりレスキューされることを確認した。そこで、著者らはSRC3がプリン合成遺伝子の発現を制御することでプリン合成を促進していると考え検討したところ、SRC3のK.D.によってプリン合成遺伝子の減少が確認された。そこで、これらの遺伝子の発現に対するSRC3の影響を検討するために、過去のChip-Seqデータを確認したところ、SRC3がプリン合成遺伝子の上流に位置していることが確認された。また、ATF4がプリン合成遺伝子に関与すると報告されていたことから、SRC3とATF4の関係性を検討した。SRC3とATF4の相互作用を免疫沈降で確認したところ相互作用が検出された。また、25mMグルコースでPFKFB4を活性化した状態ではSRC3とATF4の相互作用が増強されていた。さらに、ATF4のK.D.ではSRC3のプリン合成遺伝子上流へのリクルートが減少していた。
 最後に、PFKFB4とSRC3の生体内におけるガン増殖への影響を調べるためにPFKFB4とSRC3をK.D.したがん細胞をヌードマウスに移植した。その結果、これらのK.D.細胞ではガン形成能が低下していた。さらに、SRC3のK.D.細胞にSRC3を発現することで応答をレスキューしたが、リン酸化されないSRC3 S857A変異体では完全にレスキューすることが出来なかった。さらにガンの転移の影響も検討したところ、PFKFB4とSRC3のK.D.細胞とSRC3 S857A変異体でレスキューした細胞では肺への転移能は大きく減弱していた。
 これらの結果は栄養状態(グルコース)が良い環境ではその情報をPFKFB4がSRC3を活性化することでプリン合成を促進し、ガン細胞の増殖と転移を促進していることが強く示唆された。

雑感
近年、代謝物がエピゲノムや転写活性を制御していることが報告され、代謝物や代謝酵素が単に代謝を制御しているだけでなく、積極的に細胞の状態を制御していることが明らかになりつつある。今回の論文では、代謝酵素であるPFKFB4が転写活性化補助因子をリン酸化することで増殖を積極的に制御しており、階層を超えたシグナル伝達経路の制御システムの端緒を明らかにしたことが興味深かった。
 PFKFBは1~4まであり、他のアイソフォームが同じような機能を持っているのかも気になる点である。また、このPFKFB4-SRC3によるプリン合成制御がガン細胞だけでなく、正常細胞においても機能しているのかどうかも気になる点である。

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