分子細胞生物学

PubMedID 29191879
Title Osteoblasts remotely supply lung tumors with cancer-promoting SiglecF neutrophils.
Journal Science (New York, N.Y.) 2017 12;358(6367):.
Author Engblom C,Pfirschke C,Zilionis R,Da Silva Martins J,Bos SA,Courties G,Rickelt S,Severe N,Baryawno N,Faget J,Savova V,Zemmour D,Kline J,Siwicki M,Garris C,Pucci F,Liao HW,Lin YJ,Newton A,Yaghi OK,Iwamoto Y,Tricot B,Wojtkiewicz GR,Nahrendorf M,Cortez-Retamozo V,Meylan E,Hynes RO,Demay M,Klein A,Bredella MA,Scadden DT,Weissleder R,Pittet MJ
  • Osteoblasts remotely supply lung tumors with cancer-promoting SiglecFhigh neutrophils.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 鈴木美香子
  • 投稿日 2018/07/30

 この論文は骨芽細胞が肺がんを促進させるSiglecFhigh好中球を供給するというお話である。骨髄は幅広い癌の分野において、腫瘍ストローマ内での存在量が原因でがんを成長させる制御因子として知られている。腫瘍に浸潤している骨髄細胞は、遠い組織で作られ循環している前駆細胞により継続的に補充され、腫瘍は骨髄細胞を活性化し、抹消内の骨髄細胞数は増加する。例えば、様々な癌タイプの患者さんにおいて末梢血内の骨髄細胞レベルが上昇しているのが分かっており、更に好中球のような循環骨髄細胞数が増加していることも分かっている。これは、予後不良につながる。
 骨髄は、成人において循環している血液細胞系譜に寄与する造血細胞の生産を主に行う場所として興味深い組織である。髄は、骨の恒常性に関与するだけでなく造血細胞や免疫細胞運命に関与する、骨芽細胞のような構成要素を含んでいる。
しかしながら、癌や免疫反応での骨の動態の理解というのは、まだまだ限られてしまっている。そこで筆者たちは更に理解を深めるために、肺腺癌が骨組織に及ぼす影響やそれがどのように腫瘍に関連した造血反応・腫瘍成長に寄与するのか探求することにした。
筆者たちは、様々なモデルマウスや癌患者のサンプルを用いて、肺腺癌が骨ストローマ活性を増加することを示した。マウスを用いた実験では、癌が誘発する骨のフェノタイプは骨に常在するオステオカルシンを発現している骨芽細胞を巻き込む。オステオカルシンを発現している細胞では、腫瘍成長を制限している細胞の数を減少させることで、遠位の腫瘍成長に影響を与える。またオステオカルシンを発現している細胞は、レクチンSiglecFhigh(sialic acid-binding immunoglobulin-like lectinF)により制御される好中球の個々のサブセットを用いて成熟する腫瘍浸潤に必要である。
他の好中球と比べると、SiglecFhigh細胞の発現遺伝子は、腫瘍促進過程(血管新生・骨髄細胞分化や補充・細胞外マトリクスリモデリング・T細胞反応の抑制・腫瘍細胞増殖や成長など)に関与していることが明らかになった。
更にSiglecFhigh好中球は活性酸素種の生産を増加し、マクロファージ分化を促進し、腫瘍促進を強化する。腫瘍を持ったマウスの血液循環内でsRAGE(the soluble receptor for advanced glycation end products)が増加していることが明らかになり、sRAGEが骨芽細胞の活性が促進し、骨芽細胞に依存的な好中球を成熟させることも明らかになった。
 今回の研究によって、肺腫瘍と骨との関係性が明らかになった。
肺腫瘍は非局所転移中でさえも、骨中のオステオカルシンを発現している骨芽細胞の活性化を促進することが示唆された。またオステオカルシンを発現している細胞はSiglecFhigh好中球と共に腫瘍に供給され、癌の進行を促進する。これらの発見は、新たに腫瘍に対する全身的な宿主環境が明らかになったことから、科学的かつ治療学的に重要であるといえる。
Ocn+細胞・SiglecFhigh好中球・sRAGEは臨床バイオマーカーの候補となり、抗癌剤治療の介入ポイントになれる可能性があり、今後の更なる研究に期待できる。

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