構造生物学

PubMedID 28084320
Title Structural basis for the recognition and degradation of host TRIM proteins by Salmonella effector SopA.
Journal Nature communications 2017 Jan;8():14004.
Author Fiskin E,Bhogaraju S,Herhaus L,Kalayil S,Hahn M,Dikic I
  • Structural basis for the recognition and degradation of host TRIM proteins by Salmonella effector SopA.
  • Posted by 東京大学 理学系研究科 生物科学専攻 濡木研究室 大村 洋記
  • 投稿日 2017/07/13

 ユビキチンはシグナル伝達に重要であり、真核生物はE1、E2、E3の3種類の酵素を介してユビキチン化を行う。このうちE3 ubiquitin ligaseは、構成するドメインによってHECT、RBR、RINGに分類される。このようなユビキチン化は自然免疫系で重要な役割を持つ。
 サルモネラはヒトに感染して腸チフスや食中毒を引き起こすバクテリアである。ヒトの細胞がサルモネラに感染すると、ヒトの自然免疫受容体であるMDA5やRIG-Iがサルモネラ由来のRNAを認識する。E3であるTRIM65、TRIM56はそれぞれMDA5、RIG-Iをユビキチン化することでシグナルを増強し、インターフェロン産生経路を惹起してサルモネラに対する防御反応を引き起こす。これに対し、サルモネラは自然免疫系に対してカウンターする機構を持つことが知られていた。サルモネラの持つE3であるSopAは、Trim65、Trim56に結合し、自然免疫反応を阻害することが報告されていた。
 SopAの全長構造は既に決定されており、真核生物のHECT E3であるE6APとの構造比較から、一次配列の相同性は低いものの、立体構造的に類似したmimicであることが判明していた。また、SopAはヒトのE2に結合してユビキチンを合成することが報告されており、SopAとUbcH7との複合体構造も決定されていた。しかしながら、SopAとTRIM56/65との相互作用がどのように自然免疫反応を阻害しているのか、またSopAの合成するユビキチンのターゲットや、その役割については解明されていなかった。この論文で、筆者たちは構造機能解析により、SopAによるTRIM56/65の阻害機構を解明した。
 まず免疫沈降法を用いた結合実験により、SopAとTRIM56/65はそれぞれβ-Helixドメイン、RINGドメインを介して結合することを示した。SopAとTRIM56との複合体の結晶構造を決定した。得られた構造から、SopAはTRIM familyの中でもTRIM56/65に対して特異性を持つことが示唆された。更に、立体構造中でSopAはTRIM56のE2結合部位を塞ぐように結合することから、SopAはTRIM56/65のユビキチン合成を阻害することが示唆された。実際に、in vitroでSopA存在下ではTRIM56/65依存的なユビキチン合成が減衰することが示された。
 次に、筆者たちはSopAがTRIM56/65を基質としてユビキチンを合成する可能性を検証した。サルモネラに感染したHela細胞ではユビキチン化されたTRIM56/65が検出されたのに対し、SopAを欠失したサルモネラの感染では検出できなかった。これは野生型SopAの入れ戻しによってレスキューできたが、ユビキチンの転移に必要なシステインを変異させたSopA変異体の入れ戻しではレスキューできなかった。さらに、In vitroでE1、E2、SopA存在下でTRIM56/65がユビキチン化されることも示され、SopAはK48、K11型ユビキチンを嗜好的に合成することが判明した。そして、SopAによるTRIM56/65のユビキチン化は、プロテアソーム分解を誘導することが示された。
 以上の結果から筆者たちはSopAの機能についてモデルを立てた。SopAには2つの機能があり、第一にTRIM56/65に結合してTRIMとE2との結合を阻害し, TRIMのユビキチン合成依存的な免疫経路を阻害する。第二にTRIM自体をユビキチン化することで、プロテアソーム分解を誘導する。これら2種の機構によって、SopAは宿主の自然免疫に対する反撃を行っていることが示唆された。

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