PubMedID 30645973
Title Gain Fat-Lose Metastasis: Converting Invasive Breast Cancer Cells into Adipocytes Inhibits Cancer Metastasis.
Journal Cancer cell 2019 Jan;35(1):17-32.e6.
Author Ishay-Ronen D,Diepenbruck M,Kalathur RKR,Sugiyama N,Tiede S,Ivanek R,Bantug G,Morini MF,Wang J,Hess C,Christofori G
  • Gain Fat-Lose Metastasis: Converting Invasive Breast Cancer Cells into Adipocytes Inhibits Cancer Metastasis.
  • Posted by 東京大学医科学研究所分子発癌分野 山本瑞生
  • 投稿日 2019/02/02

 腫瘍細胞の可塑性(plasticity)は腫瘍を形成する癌細胞の多様性を生み出し、治療抵抗性や転移など癌の悪性化に寄与する。
この可塑性を生み出す最もメジャーな機構である上皮間葉転換(EMT)を制御することは間葉系の性質を持った治療抵抗性細胞の出現や原発巣からの遊走を阻害する上で重要と考えられる。一方で上皮様の細胞は活発に増殖し、実質的に患者の身体へ影響を及ぼす。そのため、EMTを阻害し、上皮様の性質を持った癌細胞を維持することが本当に治療に結びつくのか、疑問が持たれている。
 この論文で筆者たちは癌細胞の可塑性に対してそれを封じるのではなく、むしろ可塑性を利用する新しい試みを提案している。
間葉系幹細胞は生体内で脂肪細胞や骨芽細胞など様々な機能的な細胞へと分化する重要な能力を持っている。近年、EMTを起こした上皮細胞は一部この間葉系幹細胞の分化能を獲得し、適切な条件下で脂肪細胞や骨芽細胞へと分化出来ることが示された。
そこで筆者たちはEMTを起こした間葉系の乳癌細胞も同様に適切な条件を整えることで脂肪細胞へと分化させ、悪性形質を失わせることが出来るのではないかと考えた。
筆者達は様々な分化条件の検討から、EMTを起こした間葉系乳癌細胞にBMPシグナルによるTGFシグナルの抑制とPPARgアゴニストであるRosiglitazoneを処理することで効率的に脂肪細胞への分化を誘導出来ることを見出した。この癌細胞由来の脂肪細胞は遺伝子発現プロファイルやその機能が成熟した脂肪細胞と同等であり、増殖能を失っていた。
さらに実際の腫瘍中では上皮と間葉の変化は、より不安定な状態であると考えられ、そのような可逆的なEMTモデル細胞に対してはBMP刺激ではなく、TGFシグナル下流のERK経路の阻害剤処理が有効であることを見出した。そこでマウスへの乳癌細胞株の移植モデルや臨床検体の移植実験でMEK阻害剤であるTrametinibとRosiglitazone共処理によって腫瘍中の間葉系癌細胞を脂肪細胞へと分化誘導する治療法を検討し、実際に癌細胞由来の脂肪細胞の出現と転移能の低下を確認した。これらの薬剤は既にFDAによって認可されており、臨床での使用が可能である点が重要である。

 今後このような分化療法が固形腫瘍に対しても研究されることで従来の抗がん剤や分子標的治療薬では対応出来ない癌についても治療法の確立が期待できる。

返信(0) | 返信する