分子細胞生物学

PubMedID 29320480
Title Pharmacological activation of REV-ERBs is lethal in cancer and oncogene-induced senescence.
Journal Nature 2018 01;553(7688):351-355.
Author Sulli G,Rommel A,Wang X,Kolar MJ,Puca F,Saghatelian A,Plikus MV,Verma IM,Panda S
  • Pharmacological activation of REV-ERBs is lethal in cancer and oncogene-induced senescence.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 川瀧 紗英子
  • 投稿日 2019/02/13

生体内における概日時計には、脳の視交叉上核(SCN)における中枢時計、および中枢時計によってコントロールされる各臓器の末梢時計が存在する。概日時計(末梢時計)によって、末梢組織の細胞増殖、代謝、炎症、DNA損傷応答におけるリズムが制御されている。概日時計の分子機構の破綻はがんの特徴であり、慢性的な概日リズムの崩壊は個体における腫瘍発生を促進することが知られている。そこで筆者らは、概日時計の薬理学的な調整が、がんに対して効果的な治療方法となり得るという仮説を立てた。核内受容体REV-ERBα(NR1D1)とREV-ERBβ(NR1D2)は、コア時計タンパク質の1つであり、BMAL1の転写を抑制する。代謝や炎症反応に関わる遺伝子の発現を抑制する転写因子である。本研究では、このREV-ERBα/βに特異的な2種類のアゴニスト(SR9009, SR9011)が、がん細胞の生存に影響を及ぼすかどうかを検証した。
 細胞増殖アッセイおよびTUNELアッセイの結果、REV-ERBα/βアゴニストは多種類のがん細胞株(Jurkat, MCF-7, BJ-ELR, HCT-116)およびがん遺伝子誘導性の老化細胞に対して特異的にアポトーシスを引き起こす一方で、正常な細胞や組織の生存率には影響を与えないことが示された。また、REV-ERBα/βアゴニストのがん細胞特異的な毒性は、p53欠失細胞株においても示された。このことからレラのアゴニストの抗がん活性は、p53とは独立に多くの発がん性ドライバー(HRAS、BRAF、PIK3CA等)に影響することが示唆された。そこで筆者らはがん細胞において酸化ストレスが上昇していることに注目し、高酸化ストレス条件および低酸化ストレス条件での培養を行なったが、REV-ERBα/βアゴニストのがん細胞に対する選択的な毒性は持続した。
 ここで、筆者らはがん細胞において亢進しているオートファジーやde novo脂質生合成に注目した。REV-REBは、FASNやSCD1の発現を抑制することによって脂質の代謝をコントロールしている。オレイン酸がFAS-SCD1の最終産物であることに注目し、筆者らは培地にオレイン酸を加えることによってREV- ERBα/βアゴニストの抗ガン効果を止められるかを検証した。すると、オレイン酸はREV- ERBα/βアゴニストの抗ガン効果を抑制したが、細胞毒性を完全に排除できなかったため、これには脂質代謝経路以外に関わっている経路があることが示唆された。次に、オートファゴソーム形成には概日リズムが見られ、それはREV-ERBαによって制御されていることが報告されていることから、筆者らはREV-ERBα/βアゴニストの抗ガン効果にオートファジーが関係しているのではないかと考え、オートファゴソームのマーカーであるLC3Bの免疫染色を行ってこれを検証した。結果、REV-ERBα/βアゴニストオートファゴソームの数を減少させた(=オートファジーのearly phaseで阻害した)。筆者は、REV- ERBα/βアゴニストの毒性をがん細胞およびガン化ストレスによる老化細胞(オートファジーは活性化するが、de novo lipogenesisは活性化しないことが知られている)を用いて確認している。
 さらに、筆者らはREV- ERBα/βアゴニストのがん細胞に対する選択的な毒性をin vivoにおいても示した。REV- ERBα/βアゴニストはマウスにおいて神経膠芽腫の増殖を阻害し、体重減少などの副作用を特には示さずに生存を延長させた。
 これらの結果は、概日調節因子の薬理学的な調節が効果的な抗腫瘍戦略たりうることを示していると言え、筆者らは、REV- ERBα/βアゴニストががんに対して選択的な活性を持つ、オートファジーとde novoの脂質生合成阻害剤であると提唱した。
 筆者らはREV- ERBα/βアゴニストの効果においてde novoの脂質生合成阻害よりもオートファジー阻害を重要だとしているが、de novoの脂質生合成酵素SCD1がオートファジーを調節しているという報告もあり、これらは相互的に作用していると思われる。時計機構の破綻ががん化を引き起こす詳細な分子メカニズムについては、今後の研究が期待される。

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