分子細胞生物学

PubMedID 30612941
Title Tinagl1 Suppresses Triple-Negative Breast Cancer Progression and Metastasis by Simultaneously Inhibiting Integrin/FAK and EGFR Signaling.
Journal Cancer cell 2019 Jan;35(1):64-80.e7.
Author Shen M,Jiang YZ,Wei Y,Ell B,Sheng X,Esposito M,Kang J,Hang X,Zheng H,Rowicki M,Zhang L,Shih WJ,Celià-Terrassa T,Liu Y,Cristea I,Shao ZM,Kang Y
  • Tinagl1 Suppresses Triple-Negative Breast Cancer Progression and Metastasis by Simultaneously Inhibiting Integrin/FAK and EGFR Signaling.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 阿部智帆
  • 投稿日 2019/03/01

乳癌は遺伝子発現プロファイルの解析によりいくつかのサブタイプに分類される。その中でもトリプルネガティブ乳癌 (TNBC) は他のサブタイプと比較し悪性度が高く、予後不良である。他のサブタイプの乳癌の治療標的として有効なホルモン受容体 (ER, PgR)やHER2の発現が陰性であり、近年開発されてきた分子標的薬に対しても、抵抗性や耐性の獲得を示すことが多いことから、TNBCの特性に基づいた新規治療薬の開発が急務である。
筆者らはこれまでに、細胞外マトリックスの構成因子であり分泌タンパク質であるTinagl1 (Tubulointerstitial nephritis antigen-like 1) を乳癌細胞株でノックダウンすることにより、肺転移が亢進することを見出している。つまりTinagl1が乳癌における肺転移の抑制因子として働く可能性を明らかにしている。このことから本論文において筆者らはTinagl1が乳癌の進行や転移へ及ぼす影響の詳細な解明、ならびにTNBCにおける治療標的としての可能性について検討している。
はじめに、Tinagl1発現がTNBCの無病生存期間や無遠隔転移生存期間と相関していることを示した。さらにTinagl1の高発現乳癌細胞株移植実験によって腫瘍形成や肺転移が抑制されていることを明らかにした。またTinagl1が分泌タンパク質であることに着目しTinagl1リコンビナントタンパクを投与することでの腫瘍形成や肺転移への影響を検討した。その結果、Tinagl1リコンビナントタンパクの投与によって細胞周期停止作用を示し, 腫瘍形成や肺転移が抑制されることがわかった。次に, Tinagl1の細胞増殖や肺転移抑制効果の分子機構を明らかにするため、Tinagl1と相互作用するタンパク質をMS解析によって調べたところ、EGFRとIntegrin subunit β1を結合分子として同定した。 Tinagl1リコンビナントタンパク投与は, EGFやfibronectin (FN) によるEGFRシグナルやintegrin/FAKシグナルの活性化を抑制したのに対し, Tinagl1の発現抑制は, 各リガンドによる活性化を増強させた。さらに、Tinagl1がEGFRやIntegrin/FAKシグナルをどのように阻害しているのか解析を進めた結果、Tinagl1はEGFRの二量体化の抑制およびIntegrin b1へのFNの結合阻害を介して, 両シグナルを遮断していることを明らかにした。そしてこれらのシグナルを抑制することによってTNBCの増殖阻害や肺への転移を抑制していることを示した。最後に筆者らはTNBC由来の患者サンプルでは, Tinagl1の発現とEGFR・FAKの活性化が負の相関しており、これらの無病生存期間や無遠隔転移生存期間との関連も証明している。
以上のことから本論文ではTinagl1の発現により、EGFRシグナル、integrin/FAKシグナルが阻害されることによって、TNBCの進行や肺転移を抑制することから、Tinagl1が新規の有効な治療標的となりうることを示した。今後は Tinagl1の発現亢進のさらなる分子機構の解明から、Tinagl1を標的とした新薬の開発が望まれる。

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