分子細胞生物学

PubMedID 28314592
Title Reactive Oxygen Species Localization Programs Inflammation to Clear Microbes of Different Size.
Journal Immunity 2017 Mar;46(3):421-432.
Author Warnatsch A,Tsourouktsoglou TD,Branzk N,Wang Q,Reincke S,Herbst S,Gutierrez M,Papayannopoulos V
  • Reactive Oxygen Species Localization Programs Inflammation to Clear Microbes of Different Size
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 岩波史樹
  • 投稿日 2017/07/15

好中球は全白血球のうち55-70%を占め, 炎症応答に重要な役割を果たす細胞である. 病原体が体内に侵入すると, 病原体をファゴサイト―シスで取り込み, 殺菌性酵素や活性酸素を産生して病原体を除去するという機能を有する. 病原体感染時, 感染部位への好中球リクルートは炎症応答において中心的な役割を果たし, 数多くの病原体の除去に重要である. そのため好中球のリクルート数は, 適切な免疫応答が誘導されるよう厳密に制御される必要がある(Medzhitov, 2008). また, 侵襲性の高いCandida albicansの菌糸や Aspergillus fumigatusなどからわかるように, 微生物のサイズは病原毒性に大きな役割を果たしている (Brown et al., 2012). そのため, このようなサイズの大きな微生物にはより多くの好中球がリクル―トとされてくる必要があると考えられるが, これまでこの点については調べられてこなかった.

今回, Annika warnatschらは, サイズの異なる病原体が感染した際の感染部位への好中球のリクルート数・クラスタ形成の有無を解析し,その制御機構を明らかにした. 彼らはCybb -/- マウスを用いた実験とin vitroのヒト好中球を用いた感染実験によって, サイズの小さい病原体と大きな病原体で活性酸素(ROS= Reactive Oxygen Species)の発生部位が異なり, 小さい病原体が感染した際にはファゴサイトシスにより, 活性酸素は好中球の内側の部分で発生し, サイズの大きな病原体が感染した際は, 好中球の外側の部分で発生するということを示した. さらにROSが内側で産生された際には, サイトカインのIL-1b産生が抑制され, 好中球のリクルートがほとんど起こらないのに対し, ROSが細胞の外で作られた際はIL-1bが好中球で産生され, 好中球のリクルート・クラスター形成を引き起こすということを示した. また, IL-1bの抑制機構についても明らかにしており, 活性酸素が細胞の内側で作られることで, NF-kBの構成因子であるp50が酸化され, p50の分解が誘導されてNF-kB転写活性が減弱し, IL-1bの産生が阻害されていることを示している.つまりROSがサイズの異なる病原体のセンサーとして機能し, サイトカインの誘導と好中球リクルートとクラスタ形成を制御していることが明らかとなった.

この研究は, 近年になって発見されてきたシグナル伝達分子としてのROSの役割を新たに発見したという点でまず大きな価値があると考える. さらにNADPHオキシダーゼ欠損によって引き起こされる慢性肉芽腫症(CGD)の病態についても新たな知見を与えたという点でも重要な研究であるといえる.
また, ROSの「局在」によってシグナル伝達が制御されているという知見は, 細胞生物学における一細胞レベルでの時空間的な解析の重要性を改めて認識させるものであった.

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