分子細胞生物学

PubMedID 28162974
Title A UBE2O-AMPKα2 Axis that Promotes Tumor Initiation and Progression Offers Opportunities for Therapy.
Journal Cancer cell 2017 Feb;31(2):208-224.
Author Vila IK,Yao Y,Kim G,Xia W,Kim H,Kim SJ,Park MK,Hwang JP,González-Billalabeitia E,Hung MC,Song SJ,Song MS
  • A UBE2O-AMPKα2 Axis that Promotes Tumor Initiation and Progression Offers Opportunities for Therapy.
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子発癌分野 阿部 智帆
  • 投稿日 2017/07/15

 タンパク質をユビキチン化するシステムにはユビキチンに結合することによってユビキチンを活性化するE1、ユビキチン、標的タンパク質と結合するE2、標的タンパク質を特異的に認識し、ユビキチンの付加を行うE3の3つの酵素が必要であるとされている。今回、筆者らはこのシステムにおいてE2、E3の2つの活性を兼ね備えているとされるUBE2Oというユビキチンリガーゼに注目した。UBE2Oは染色体の17q25に局在しており、乳癌などのいくつかの癌で17q25が増幅されていることが明らかになっている(Britta et al., 2015; Lin et al., 2011; Toffoli et al., 2014; Wang et al., 2015)。しかしUBE2Oの腫瘍形成に対する役割については知られていない。
 筆者らはセリンスレオニンキナーゼであるAMPKにも注目した。AMPKは細胞内のエネルギーセンサーとしての役割を担っており、細胞内のATP量が減少するとAMPによって活性化する。AMPKの活性によってAMPKの下流に存在するmTOR pathwayが阻害され細胞増殖が阻害されることが明らかになっている(Gwinn et al., 2008)。また癌細胞の代謝では低酸素状態での癌細胞の生存、増殖にアドバンテージを与えるワールブルグ効果という現象が見られるが、AMPKはワールブルグ効果を阻害することが明らかになっている(Faubert et al., 2013, 2014)。このようにAMPKは腫瘍の形成を抑制する働きを持っており、実際にAMPKの欠失や活性の減少が人の乳癌や腎臓癌で確認されている。しかし腫瘍形成におけるAMPKの分解や制御に関するメカニズムについてはまだはっきりとは解明されていない。
 AMPKはの3つのサブユニットを持つ3量体であり、活性部位であるサブユニットにはの2つのアイソフォームがあり、AMPKの上流にあるLKB1などのキナーゼによって活性化することはすでに知られているが、腫瘍形成の際にAMPKがどちらのアイソフォームを選択するかのメカニズムについては明らかにされていない。
 本論文において筆者らはまず乳癌や前立腺癌のモデルマウスでUBE2Oをノックアウトすることにより腫瘍の形成や転移が促進することを明らかにした。さらに免疫沈降法を用いた実験によりUBE2OとAMPKα2が結合し、AMPKα1ではなくAMPKα2のみが選択的にユビキチン化され分解されることを示した。筆者らはこれらの結果を踏まえUBE2OがAMPKの下流に存在するmTOR pathwayやHIF1αの活性を誘導するかどうかを調べた。結果、mTOR pathwayやHIF1αが活性化され細胞の増殖や腫瘍の形成が促進すること、またワールブルグ効果を誘導することをin vitro, in vivo両方で明らかにした。これらをまとめるとUBE2OがAMPKα2をユビキチン化し分解することによって、AMPKα2が阻害していたmTOR-HIF1αの活性が起こりワールブルグ効果を誘導することで、腫瘍形成が促進することを筆者らは本論文で示した。
 さらに筆者らは本論文の最後でUBE2O の活性部位に隣接するシステインと架橋することによってUBE2Oの活性を阻害することが明らかとなっているATOという薬剤によって、今回明らかになったUBE2O依存的な腫瘍形成を抑制出来ることを乳癌や前立腺癌のモデルマウスで示した。これらのことはUBE2O-AMPKα2系が今後、癌治療の標的として有用であることを示唆した。

 本論文で最大の発見はUBE2Oによるユビキチン化の標的としてAMPKα2が同定されたことであると思う。その結果以前より癌で過剰発現していると知られていたUBE2Oを介した腫瘍形成のpathwayを明らかになった。またUBE2Oが今後の有効な癌の治療標的となりうることを示した点にも大きな価値があるだろう。
 また本論文でUBE2OはAMPKのαサブユニットの2つのアイソフォームの中からα2を選択的にユビキチン化、分解することにより腫瘍形成が促進することが示されたが、過去にはメラノーマ抗原をコードする遺伝子であるMAGE遺伝子とE3ユビキチンリガーゼであるTRIM28の複合体によってAMPKα1がユビキチン化され、分解されることで腫瘍の形成が促進されていることが明らかになっている(Leslie K et al., 2015)。このようにユビキチン化を介したα1, α2の分解が、腫瘍形成を促進するという知見からAMPKのユビキチン化は、腫瘍形成において非常に重要な役割があると考えられる。そのため、様々な癌におけるAMPKユビキチン化の役割を解明することが腫瘍形成メカニズムの解明に重要であるだろう。

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