分子細胞生物学

PubMedID 30971822
Title p38γ is essential for cell cycle progression and liver tumorigenesis.
Journal Nature 2019 Apr;568(7753):557-560.
Author Tomás-Loba A,Manieri E,González-Terán B,Mora A,Leiva-Vega L,Santamans AM,Romero-Becerra R,Rodríguez E,Pintor-Chocano A,Feixas F,López JA,Caballero B,Trakala M,Blanco Ó,Torres JL,Hernández-Cosido L,Montalvo-Romeral V,Matesanz N,Roche-Molina M,Bernal JA,Mischo H,León M,Caballero A,Miranda-Saavedra D,Ruiz-Cabello J,Nevzorova YA,Cubero FJ,Bravo J,Vázquez J,Malumbres M,Marcos M,Osuna S,Sabio G
  • p38γ is essential for cell cycle progression and liver tumorigenesis
  • Posted by 東京大学 医科学研究所 分子シグナル制御分野 森泉 寿士
  • 投稿日 2019/11/05

 ヒトのプロテインキナーゼは518種類存在し、その内478種は、触媒ドメインの配列が関連した単一のスーパーファミリーに属する。これらキナーゼの触媒ドメイン間の配列類似性を示すのがキナーゼ樹状図である。2つのキナーゼの間の枝分かれの距離は、この配列の間の相違の程度に比例しており、7つの主要なグループ(CMGC、CAMK、AGC、CK、STE、TKL、TK)に分かれている。例えば、TK(Tyrosin kinase)グループでは、Tyrosin残基のみをリン酸化するキナーゼに対して、他のグループに属するキナーゼは、SerineおよびThreonineをリン酸化する。さらに細かく見ると、CMGC(Cdk・MAPK・GSK・CLK)グループ内のCdkおよびMAPKは、両方ともプロリン指向性プロテインキナーゼである。このように、樹状図からキナーゼの基質や機能を予測することが可能である。
 Cdk (Cyclin-dependent kinase)は、Cyclinと複合体を形成して細胞周期を進行させる働きがある。ヒトでは細胞周期に関与する11種類のCyclinと4種類のCdkが知られており、それらが様々な組み合わせで複合体を形成し、細胞周期を制御する。例えば、G1期にCyclin D-CDK4複合体は、細胞周期停止に関わるRbタンパク質をリン酸化する。そして、リン酸化されたRbが転写因子であるE2Fと乖離することで、Cyclin Eの転写が誘導され結果、細胞周期はS期に移行する。
 今回、筆者らはCdkと触媒ドメインが類似しているMAPKに注目し、Cdkと同様にMAPKがRbのリン酸化を介して細胞周期を制御するか解析を行った。

 まず筆者らは、ストレス応答MAPK(SAPK)の中でCdk1/2と立体構造が最も類似しているp38のisoformの一つであるp38γに注目した。さらにCDK1のATP拮抗阻害剤であるRO3306が、p38γのATP binding pocketに嵌る(分子間の距離が安定する)か、シミレーションを行った。p38γではRO3306と距離が一定になる(結合する)のに対して、p38α(p38のisoformの一つ)ではRO3306と結合しなかった。このシミュレーション結果からp38γとCDK1/2のATP binding pocketの構造が似通っていることが示唆された。
 次に筆者らは、p38γとCDK1/2が、同じ基質をリン酸化する可能性を考えた。実際にp38γは、CDK1/2の基質であるRbをリン酸化し、さらに増殖を亢進させることが分かった。またマウスにDiethylnitrosamineを投与した肝発癌モデルにおいて、p38γを肝臓特異的にノックアウトすると、腫瘍サイズが小さくなること、また生存期間も延長することを明らかにした。

 今回、p38γはRbのC末端をリン酸化し、Rb-E2Fの結合を阻害することを示したが、以前の論文で、p38αがRbのN末端をリン酸化し、RB-E2Fの持続的な結合を誘導するという報告がある。p38αとp38γは、同じMAPKKによってリン酸化され活性化することから、p38からRbへのリン酸化、そしてRb-E2Fとの結合状態のより詳細な解析が必要であると考える。
また、今回興味を引いたATP拮抗阻害剤を用いたシミュレーションスクリーニングは、他のキナーゼの基質探しにも利用できる可能性があり、今後活用したい方法である。

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